長いこと不動産の仕事をしているので、これまでにたくさんのマンションを見てきた。誤解をおそれずに言えば、辟易するくらいの数を見てきたと言っていいと思う。その中で、心底怖いと感じたマンションが二つあった。霊的な意味での怖さである。
普段から霊感などとんと縁のない男だと自認しており、「霊的不感症」といって自慢していた。その不感症なわたしが、怖くなって逃げ出してきたことが二回ある。
ひとつは山手通りの内側にある渋谷区のマンションだ。その日は、マンションの下見をするためにスタッフと二人で車ででかけた。現地に着くと変わった車が停まっていた。
エントランス内に入ると管理人さんが近づいてきて、小さな声で耳打ちした。「今、降りてくるので少しお待ちください」。なんだろうと思いつつそこで待っていると、ストレッチャーに載せられた仏様が運ばれてきた。内心ぎくっとしたが、平静を装い合掌して見送った。マンション内で亡くなられた方が運ばれるところであった。もともとそのマンション自体に重い雰囲気を感じていたのだが、その印象と重なったものだから、だんだん怖くなってしまった。
気を取りなおしてスタッフに声をかけた。「じゃ行こうか」。エレベーターのボタンを押した。ドアが開くと「うわっ!」と声を出してしまった。奥の扉が開いているではないか。閉めて行かなかったようだ。奥の扉が開いたままのエレベーターに乗る勇気などなかった。「ダメだ。階段で行こう」。そう言って階段で二階に上がった。
なんとも落ち着かない気分で鍵を開け部屋に入った。そうしたら部屋の中の雰囲気までが怖く感じるのである。先ほどの余韻かもしれない。しかし、マンションに着いたときから、重い気配は感じていたからどちらともいえず、もしかしたら両方の影響かもしれない。いずれにしても室内を見る余裕など無くなってしまている。あたふたと逃げるようにマンションを後にした。
もうひとつは亀戸駅近くのマンションだった。そのときもスタッフと二人で下見であった。駅から近いのでマンションはすぐに見つかった。エントランスに入っても私は何も感じなかった。スタッフはそのときから嫌な感じがしていたそうだ。怖い話は内見するときにはなるべく言わないように心がけている。恐怖心が伝播するからだ。だからそのときはお互いに何もコメントしなかった。
エレベーターで最上階に上がって部屋に入ってみると、室内の電気が点いていた。誰かが消し忘れただけかもしれないが嫌な気配がする。普段から霊的不感症を自認しているわたしだが、気味が悪くてしかたない。そわそわと落ち着かない内見で、満足に室内を見ることができなかった。このマンションもかなり怖かったことを覚えている。
ここまで怖いというのは、何かしらの霊的マイナス要因があるのだろう。霊能力など無いから自分の直感を信じるしかない。こんなマンションだと運気も下がってしまうだろうからパスした方が賢明だ。「怖いな」、「なんとなく嫌だな」、と思ったら、その直感を信じてそのマンションは見送ることをお薦めする。